第9章:測定誘起型量子計算と時間領域量子操作による大規模化

9.1 測定誘起型量子計算(MBQC)モデルと高効率な光量子処理

従来の量子コンピュータでは、個々の量子ビットに順次物理的な量子ゲートを適用して計算を進めるが、光量子系では配線の複雑化や大規模集積化が物理的に極めて困難であるという課題(配線問題・大規模化問題)がある。これを解決するアプローチが「測定誘起型量子計算(MBQC)」である。MBQCでは、あらかじめ「適切な大規模量子もつれ状態(クラスター状態)」を準備し、その後は「個々の量子を適切な(例えば特定の角度/位相での)測定を行い、その結果を用いて残りの量子にフィードフォワードする」という操作だけで、任意の量子計算(ユニバーサル量子計算)を実行できる。MBQCの主な特徴は以下の通りである。

  1. 計算のゲート操作が、ホモダイン測定の「測定位相(ローカルオシレーターの位相)」を制御・変更することのみで実行されるため、光学経路の物理的組み換えは一切不要となる。
  2. 連続量方式においては、前述の有限スクイージングによるノイズが存在していても、スクイージングレベル(スクイージングレベル)が十分であれば、権利的に量子エラーを補正して計算を完全に実行可能であることが2014年のMenicucciらの理論(Phys. Rev. Lett. 112, 120504 (2014))で証明されている。

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9.2 時間領域マルチプレキシング(時間マルチプレキシング)によるクラスター状態の生成

クラスター状態を生成する際、物理的なビーム(光路)を大量に並べることは空間の制限により限界がある。そこでアサバナント先生らが考案した手法が、同一の単一光ビーム上に時間的に連続するパルス「時間ハスク(時間パルス)」を定義し、それを遅延ファイバーを用いて時間的に干渉・もつれさせる「時間領域マルチプレキシング」手法である。この手法により、物理的なミラーや結晶の数を一切増やすことなく、時間方向に無限に広がる大規模なもつれ状態を極めて容易に生成可能となった。2013年に1次元時間領域クラスター状態の生成が成功し(Yokoyama et al., 2013)、さらに2019年には、アサバナント先生らが世界で初めて、任意量子計算(ユニバーサル計算)に必要な2次元時間領域クラスター状態(2次元クラスター状態)の生成に成功した(Science 366, 373 (2019))。

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9.3 時間領域での量子操作の実証実験と47ステップ連続操作

この時間領域クラスター状態を用い、パルス(ハスク)ごとにホモダイン測定の測定位相を、電気光学変調器(EOM)などを用いて高速で切り替えることで、実際の計算ステップ(量子操作)を順次実行した実験が2021年に行われた(Asavanant et al., PRApplied 16, 034005 (2021))。本実験では、パルスの時間幅(パルス間隔)を Δt=40ns\Delta t = 40\,\text{ns} とした時間領域クラスター状態を使用し、「47ステップの連続的な量子操作」が理論予測通りに極めて正確に実行できることを実証した。この結果により、時間領域マルチプレキシングとMBQCモデルを組み合わせることで、物理的なハードウェア規模を拡大させることなく、極めて大規模かつ高速な(テラヘルツ帯の超高速動作も可能となる)光量子コンピューティングが実現可能であることが強固に証明された。

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