第8章:Wigner関数と現実的な量子テレポーテーションの応用

8.1 Wigner擬確率分布関数と量子姿勢の負値特性

不確定性原理により位置 x と運動量 p を同時に確定させることはできないが、これら2つの変数を用いて量子状態の統計的振る舞いを記述する「擬確率分布」として「Wigner(ウィグナー)関数」が導入される。密度行列を ρ^\hat{\rho} としたとき、Wigner関数 W(x, p) は以下のようにフーリエ変換の形式で定義される。

W(x,p)=12πℏ∫−∞∞dζ⟨x+12ζ|ρ^|x−12ζ⟩exp(−iℏζp)W(x, p) = \frac{1}{2\pi\hbar}\int_{-\infty}^{\infty} d\zeta \langle x + \frac{1}{2}\zeta | \hat{\rho} | x – \frac{1}{2}\zeta \rangle \exp\left(-\frac{i}{\hbar}\zeta p\right)

Wigner関数は、周辺積分をとることでそれぞれの物理量の確率分布を再現する。

Pr(x)=∫−∞∞dpW(x,p),Pr(p)=∫−∞∞dxW(x,p)Pr(x) = \int_{-\infty}^{\infty} dp W(x, p), \quad Pr(p) = \int_{-\infty}^{\infty} dx W(x, p)

Wigner関数の最大の特徴は、古典的な確率分布とは異なり「位相空間上で局所的に負の値(負の領域)を取り得る」という点である。このWigner関数の負値は、システムが古典物理では説明できない非古典的な状態(純粋な量子姿勢)にあることを示す強固な証拠(量子姿勢の特徴)となる。

8.2 有限スクイーズによるガウス型ノイズの重畳と非ガウス状態の転送

前章で示した通り、現実の実験ではスクイージングが有限であるため、テレポーテーション後に有限スクイーズに由来する「ガウス型ノイズ」が重畳される。これは、入力状態のWigner関数に対してガウス関数を「畳み込み積分」することに対応し、Wigner関数が位相平面上で「ぶやっとぼやけてしまう」効果をもたらす。このぼやけにより、量子姿勢の特徴であるWigner関数の負の領域は、転送後にノイズで相殺されて減少する。しかし、2011年の実験(Lee et al., Science 332, 330 (2011))において、負の領域を持つ非ガウス型の量子状態をインプットとしてテレポートし、畳み込みによるぼやけが存在したとしても、転送後の出力状態において「Wigner関数の負値」が明確に保持され、非古典性が温存されることが実証された。

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8.3 量子中継器および多モード量子テレポーテーションネットワークへの応用

量子テレポーテーションの要素技術は、長距離量子通信やネットワーク構築において必須となる応用プロトコルへと発展している。

1. 量子中継器(エンタングルメントスワッピング):アリスとボブが非常に遠隔に存在する場合、光子を直接送信すると光損失(伝送損失)によってもつれが消失してしまう。そこでアリスとボブが各々手元でもつれを生成し、片方を中間のステーションへ送信してベル測定を行う(エンタングルメントスワッピング)。その古典測定値を元にフィードフォワードすることで、直接作用していないアリスとボブの間に遠隔もつれ(スワップ)が誘起される。連続量方式のスワッピングは2005年にTakeiらによって実証された(Phys. Rev. Lett. 94, 220502 (2005))。

2. 量子テレポーテーションネットワーク:もつれを3モード以上に「多モード化(マルチモード化)」することで、複数のユーザー(アリス、ボブ、クレーなど)が接続された量子ネットワークを構築する。このネットワーク上では、接続された誰の間であっても自在にテレポーテーション可能となる。この多モードもつれに基づくテレポーテーションネットワークは2004年にYonezawaらによって実証された(Nature 431, 430 (2004))。

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