第6章:量子ビットの量子テレポーテーション

6.1 量子ビットにおける基本量子ゲートの動作と光学的実装

量子ビットによるテレポーテーション回路を構築するための基本要素となるゲート操作を定義する。

  1. Pauli-Z(パウリZ)ゲート:位相を反転する。光量子系では、角度22.5度に設置したλ/2波長板などで容易に実現できる。
    |0⟩→|0⟩,|1⟩→−|1⟩|0\rangle \to |0\rangle, \quad |1\rangle \to -|1\rangle
  2. Pauli-X(パウリX)ゲート:ビットを反転(NOT操作)する 。角度45度に設置した λ/2波長板などで実現できる。
    |0⟩→|1⟩,|1⟩→|0⟩|0\rangle \to |1\rangle, \quad |1\rangle \to |0\rangle
  3. Hadamard(アダマール)ゲート:基底を変換する。角度22.5度に設置した 1/2波長板で実現できる。
    |0⟩→(|0⟩+|1⟩)/2,|1⟩→(|0⟩−|1⟩)/2|0\rangle \to (|0\rangle + |1\rangle)/\sqrt{2}, \quad |1\rangle \to (|0\rangle – |1\rangle)/\sqrt{2}
  4. CNOT(制御NOT)ゲート:2量子ビット操作であり、制御ビットが |1⟩|1\rangle の場合のみ、標的ビットを反転する。もつれの生成に必須となる。

6.2 離散量子もつれ(ベル状態)の生成

テレポーテーションの「リソース」となるのが、強固な相関を持つ量子もつれ(ベル状態)である。初期状態の |0⟩1|0⟩2|0\rangle_1 |0\rangle_2 に対して、1番目のビットにHadamardゲートをかけ、その後2ビット間にCNOTゲートを適用することで、最大もつれ状態(Maximally entangled state)が生成される。

|ψBell⟩=12(|00⟩+|11⟩)|\psi_{\text{Bell}}\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle + |11\rangle)

この状態は、どの基底(0/1基底、または+/-基底)で測定しても完全に同一の結果(強い相関)を示す、古典物理学では説明不可能な強い量子相関を持つ。

6.3 ベル測定と古典情報を用いたフィードフォワード補正

アリスが転送したい未知の入力状態 |ψin⟩|\psi_{\text{in}}\rangle = a|0⟩+b|1⟩a|0\rangle + b|1\rangle と、あらかじめボブと共有したベルもつれ状態の一方に対して、アリスが「ベル測定」を実行する。ベル測定とは、アリスが持っている2量子ビットを最大もつれ状態(4つのベル状態)へと射影する共同測定である。測定の結果、アリスの2ビットはランダムに4つのベル状態のいずれかに射影され、同時にボブ側の量子状態は以下のように波束が収縮する。

  1. アリスの測定値が 00 の場合:ボブの状態は a|0⟩+b|1⟩a|0\rangle + b|1\rangle (入力と完全に同一)。
  2. アリスの測定値が 01 の場合:ボブの状態は a|1⟩+b|0⟩a|1\rangle + b|0\rangle (Xゲートがかかった状態)。
  3. アリスの測定値が 10 の場合:ボブの状態は a|0⟩−b|1⟩a|0\rangle – b|1\rangle (Zゲートがかかった状態)。
  4. アリスの測定値が 11 の場合:ボブの状態は a|1⟩−b|0⟩a|1\rangle – b|0\rangle (XZゲートがかかった状態、すなわち位相およびビットが反転)。

アリスのベル測定結果は完全にランダムに得られるため、このままではボブの手元の状態もランダムに揺らいで情報が消滅してしまう。このランダム性に対処するため、アリスは測定結果(2ビットの古典情報)をボブに送信し(古典情報の送信)、ボブはその結果に応じて、手元の状態に適切なパウリゲート(I, X, Z, 又は XZ)を施して補正を行う(フィードフォワード)。このフィードフォワード操作を適用することで、アリスの測定がどんなランダムな結果であっても、ボブは確実に入力と全く同じ状態を復元できる。

図版

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6.4 量子ビット方式の実証実験と限界

この量子ビット偏光を用いた量子テレポーテーション実験は、1997年にBouwmeesterらによって世界で初めて実証に成功した(Nature 390, 575 (1997))。2022年のノーベル物理学賞は、まさにこのもつれ状態の生成と量子テレポーテーションの実証などの先駆的な成果に対して授与されたものである。しかし、この離散(量子ビット)方式の光量子テレポーテーションには、「ベル測定やもつれ光源の生成が本質的に確率論的(確率的)であり、決定論的には成功せず、動作成功率(成功率)が著しく低い」という本質的なデメリット・限界が存在する。

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