第1章:なぜ量子テレポーテーションか、なぜ光か
1.1 量子情報処理における量子テレポーテーションの重要性
量子テレポーテーションは、単に量子状態を別の場所に転送するだけでなく、光量子情報処理における最も基本的な基本操作である。また、量子テレポーテーションの動作に必要な各要素(量子もつれ、射影測定、フィードフォワード)は、量子情報処理全体を行う上での最も基本的な概念を含んでおり、このプロトコルを完全に理解することは、より高度な量子情報処理プロトコルや量子コンピューティングシステムを理解する上での最適な基盤となる。
1.2 光を量子情報の媒体として用いる物理的利点
量子テレポーテーションや量子情報処理を実装するための媒体(物理系)としては、超伝導回路、イオントラップ、中性原子など様々なシステムが研究されているが、その中で光(光子)を用いることには、他の物理系にはない極めて強力な以下の3つの特徴がある。
第1に、常温常圧下で量子性を発揮・保持できる点である。他の多くの物理系は極低温(冷凍機による希釈冷凍など)や真空状態を必要とするが、光はエネルギー物理スケールが非常に高いため、常温空気中であってもその量子性を劣化させることなく動作させることが可能である。
第2に、光は本質的に電磁波(電磁場)であるため、空間を伝搬しながら量子状態を保持できる唯一と言えるシステムである。将来的に複数の量子コンピュータや離れたユーザー間で量子情報をやり取りする「量子通信」や「量子ネットワーク」を構築する際、光は極めて重要な、不可避の媒体となる。
第3に、光は極めて高いキャリア周波数を持っている点である。例えば、光ファイバー通信や実験系でよく用いられる波長である 860 nm は約 348 THz、1550 nm は約 193 THz と、基本数100THzの周波数を持つ。量子計算や量子操作はこのキャリア周波数の帯域幅の範囲内で実行されるため、元のキャリア周波数がギガヘルツ(GHz)程度である他のシステム(超伝導回路など)と比較して、光は圧倒的に広い帯域幅を利用可能であり、これにより極めて高速な量子計算が期待される。
