第2章:古典力学・量子力学の基本的な考え方、量子力学の数学的な扱い
2.1 古典物理学と量子力学の「状態」「測定」「局所性」における相違点
ミクロな量子システムを記述するためには、日常生活における直感に基づく古典物理学(ニュートン力学、マクスウェル方程式)の概念を根本的に覆す必要がある。古典物理学と量子力学の基本的な考え方の違いを「状態」「測定」「局所性」の3つの観点から以下のように整理している。
- 状態:古典物理学において、ボールのような物体の「状態」とは、初期の位置や速度(運動量)が一意に定まっており、運動方程式によってその後の時間変化が決定論的に予測できるものである。これに対し量子力学における「状態」とは、位置や運動量そのものが確定した値として存在するのではなく、それら「すべての物理量に対して確率分布を与えるもの」として定義される。
- 測定:古典物理学での「測定」とは、あらかじめ一意に決まっている位置や速度という情報を単に「覗き見る」だけの行為である。測定によって対象の状態が変化することはない。しかし量子力学では、測定を行うまでは具体的な値は権利的に定まっておらず、測定という行為そのものが「対象の取り得る固有値からいずれか一つの値を取り出す(波束を収縮させる)」能動的な行動となる。
- 局所性:古典物理学では、2つの物体を接触(相互作用)させた後、完全に引き離してしまえば、それ以降は互いに無関係であり、それぞれのシステムを独立して記述できる(局所性)。一方、量子力学では、相互作用させた後にどんなに遠く離したとしても、片方を測定した瞬間にもう片方の状態が瞬時に決定されるような、独立して記述することが不可能な強い相関(非局所的な量子もつれ状態)が存在し得る。

2.2 量子力学の数学的な扱いと固有値・固有ベクトル
量子力学における数学的要請は、シュレーディンガー方程式によって記述される。
ここで はエネルギー演算子(ハミルトニアン)、 はシステムの状態を表す状態ベクトルである。物理量(位置、運動量など)に対応する演算子を (エルミート演算子)とすると、その固有ベクトルを 、固有値を a としたとき、以下の固有値方程式が成り立つ。
状態ベクトル が与えられたとき、固有ベクトル との組み合わせ(内積)を計算することで波動関数 ψ(a) = ⟨a が得られ、その絶対値の2乗 がその物理量を測定した際に値 a が得られる確率分布を与える。
2.3 交換関係と不確定性原理
2つの物理量 と が同時に確定した状態が存在するかどうかは、それらの演算子の交換関係によって定まる。
交換関係が 0 である場合()、これらは同時に確定した状態が存在可能である(同時確定可能)。しかし、交換関係が 0 でない場合()、これらは同時に確定することはできず(同時確定不可能)、不確定性関係(不確定性の原理)が支配する。最も代表的な例は、位置演算子 と運動量演算子 であり、これらの間には以下の交換関係が成立する。
この非ゼロの交換関係から、位置のばらつき(標準偏差) と運動量のばらつき の間には、物理的要請として以下の不確定性関係が強制される。
これにより、位置と運動量を同時に無限の精度で確定させる量子状態は存在し得ないことが示される。
