図1に示すように、モード同期レーザーの出力は時間軸で見ると周期的なパルス列であり、高速に振動している電場と包絡線の関数で描写することができる。包絡線の伝搬速度は群速度vgであり、高速に振動している電場、すなわちキャリアの伝搬速度は位相速度vpである。

一般的に群速度と位相速度は異なるため、パルスが進むにつれ、包絡線とキャリアのピーク部は徐々にずれていく。この位相のずれは、いわゆるキャリア・エンベロープ・オフセット・フェーズ(Carrier-Envelope offset Phase: CEP)φCEPである。φCEPはパルス間で周期的にずれており、ある一定の周期TCEOをもつ。この周期をフーリエ変換して、周波数軸でキャリア・エンベロープ・オフセット周波数fCEOが観察される。モード同期レーザーの出力を周波数軸で観察すると、レーザーの縦モードが、パルスの繰り返し周期Tの逆数である繰り返し周波数frep間隔で極めて一様に分布している。これがいわゆる光周波数コムである。fCEOとfrepはφCEPを用いて、次式のように関係づけることができる。

CEOのために、光周波数コムの任意のモード(コムモード)周波数はfrepの整数倍からfCEO分のずれをもつ。したがって、光周波数コムは2つのマイクロ波(Radio Frequency: RF)周波数の和になる。

… (1)

ここでνnはn番目のコムモードの光周波数である。式(1)は、光周波数コムが光周波数とマイクロ波周波数を精密につなげていることを意味しており、光周波数コムを理解する上で非常に重要である。frepとfCEOが揺らぐことで、光周波数コムが揺らぐことがわかる。そこで両方とも電気信号に変換し、マイクロ波基準信号に位相同期する。frepの検出はErモード同期ファイバーレーザーの場合、100 MHz程度の帯域があるInGaAsフォトダイオード(PD)でパルス光を受光する。一方、fCEOの検出は工夫が必要である。

fCEOの検出には、いわゆるf-2f干渉法を用いる[1][2]。Erモード同期ファイバーレーザーの出力スペクトルは1560 nm近辺を中心に30~60 nm広がっている。これを高非線形ファイバー(Highly nonlinear fiber: HNLF)を用いて、波長1000 nmから2000 nm、すなわち1オクターブ以上に広帯域化する。これはn番目のコムモードと2n番目のコムモードが同時に含まれていることを意味する。2n番目のコムモードの周波数は

となる。n番目のコムモードと周期分極反転LiNbO3(Periodically poled Lithium Niobate: PPLN)を用いて第2高調波2νnを発生する。これと2n番目のコムモードの差を取るとCEOビート周波数が発生する。

このビート信号を帯域100 MHz程度のInGaAs-PDで受光することで、fCEOを検出することができる。電気信号として検出されたfrepとfCEOを、セシウム原子時計や周波数値が校正されたマイクロ波周波数基準に位相同期することで、光周波数コムを光周波数の絶対値を有する「光周波数の物差し」として用いることができる。

図1: 光周波数コム (a)時間領域におけるパルス列、(b)周波数領域における光周波数コム

「中嶋善晶, 光周波数標準のためのファイバー型光周波数コム低雑音化に関する研究, 2010.」より。

References and Links

  • [1] D. J. Jones, S. A. Diddams, J. K. Ranka, A. J. Stentz, R. S. Windeler, J. L. Hall, and S. T. Cundiff, “Carrier envelope phaser control of femtosecond modelocked lasers and direct optical frequency synthesis,” Science 288, 635-639 (2000).
  • [2] T. R. Schibli, K. Minoshima, F. -L. Hong, H. Inaba, A. Onae, and H. Matsumoto, “Frequency metrology with a turnkey all-fiber system,” Opt. Lett. 29, 2467-2469 (2004).

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