ECL(外部共振器型半導体レーザー)

ECL(External Cavity Laser:外部共振器型レーザー)は、半導体レーザーチップ(ゲインチップ)の外部に回折格子(グレーティング)やミラーなどの波長選択素子を配置し、共振器長を物理的に拡張した構造を持つ半導体レーザーです。
半導体レーザー特有の「コンパクトさ・広波長帯域」というメリットを維持しつつ、「数kHz〜数十kHzレベルの超狭線幅」と「広い波長可変範囲」を両立できる点が最大の特徴です。

構造と基本原理

通常の半導体レーザーはチップ端面間(数百μm)で光を共振させますが、ECLでは片側の端面に無反射(AR)コーティングを施し、光を外部へ導き出します。

  • 共振器長(Cavity Length)の伸長:共振器長を長くすることで、共振器のQ値が高まり、レーザー光の位相ノイズが大幅に低減(=スペクトル線幅が極限まで縮小)します。
  • 波長選択と可変機構:外部に置かれた回折格子(リフレクター)の角度や位置をピエゾ素子(PZT)やモーターで微調整することで、特定の波長だけを選択的にフィードバック(帰還)させます。これにより、スムーズで不連続(モードジャンプ)のない波長チューニングが可能になります。

代表的な光学配置

  • Littrow(リトロー)型: 回折格子の1次折返し光をそのままゲインチップに戻す配置。構造がシンプルで出力が高い。
  • Littman-Metcalf(リットマン・メトカーフ)型: 回折格子に加えて固定ミラーを使い、ミラーの角度を変えて波長を選ぶ配置。出力を維持したまま極めて広い可変範囲を得られる。

ECL(外部共振器型半導体レーザー)|主要メーカー

コヒーレント光通信

QAMなどの多値位相修飾を用いた大容量・超高速光通信のローカル発振器(LO)光源。

FMCW LiDAR

周波数連続変調を用いて、物体までの距離と相対速度を同時に精密測定する次世代LiDAR。

量子技術・光格子時計

原子の冷却やトラップに必要な、極めて厳密な特定の励起波長供給。

高分解能分光・ガスセンシング

分子の鋭い吸収線を高精度にスキャン・同定する分光分析。

主要な技術的メリット

  • 超狭線幅(Ultra-narrow Linewidth):一般的なDFBレーザーの線幅が数MHz程度であるのに対し、ECLは 数kHz〜100kHz以下(高性能なものでは1kHz未満)という卓越した単色性を誇ります。
  • 広い無モードジャンプ波長可変(Mode-hop-free Tuning):単一の素子で数nm〜数十nmに及ぶ広い波長範囲を、連続的にスキャン(掃引)可能です。
  • 高い位相安定性:コヒーレンス長(光の干渉性が保たれる距離)が数km以上に達するため、精密な長距離干渉計測に最適です。

選定・運用時の注意点

  • 機械的振動・熱への過敏性:外部共振器という物理構造を持つため、周囲の音・振動・温度変化が波長ゆらぎの原因となります。厳重な除振・静音・精密温度制御(TEC)が必須です。
  • 超低ノイズ電源の選定:駆動電流のわずかなノイズ(リップル)も線幅の広がりにつながるため、ECL専用の低ノイズLDドライバーを使用する必要があります。

メーカー

photodigm_logo
  • 精密計測や量子向けに、独自の外部・拡張共振器構造を組み込んだ高安定・超狭線幅レーザーを展開。

Thorlabs_Logo_Red
  • 産業・研究用のECLモジュールやITLA(整合型可変レーザーアセンブリ)分野の主要サプライヤー。

toptica-logo
  • 量子技術や精密分光、光通信向けに、広い波長域をカバーする高安定・超狭線幅の波長可変ECLを展開。

Stable Laser Systems ロゴ
  • 量子技術や光格子時計、精密分光向けに、ECDLを含む各種レーザーをサブHz級へ安定化するシステムを展開。

INPHENIXロゴ
  • LiDARやコヒーレント検出、光ファイバーセンシング向けに、シリコンフォトニクス技術を用いた小型・超狭線幅ECLを展開。