周波数引き寄せ現象 とは
YS-307はレーザー媒質の異常分散に起因する 周波数引き寄せ現象 を利用して周波数安定化を行っています。
制御信号が周波数である事、Ne利得曲線(ゲインカーブ)中央に発振モードを安定化できる、という特長があり、周波数引き寄せ現象 を利用した安定化制御を行う事で、
- 幅広い時間間隔(1秒間隔〜1,000秒間隔)における10-11の周波数安定性
- シングルモード3 mWの高出力
- ±300 kHzのリセッタビリティ(電源再投入時の周波数再現性)
を実現しています。
周波数引き寄せ現象 の原理
周波数引寄せ現象 とは、レーザー媒質の異常分散により、Ne利得曲線(ゲインカーブ)内における発振モード位置が共振器の位相条件で決まる発振位置νmより若干Ne利得曲線(ゲインカーブ)の中央側発振位置νに引き寄せられる現象です。(図1(a))
この時の周波数引き寄せ量ν-νmはNe利得曲線(ゲインカーブ)の形状に依存し、モードの発振位置νmにより図1(b)のように変化します。そのため複数の発振モードが存在する場合にモード間の差周波数は発振位置によって変化します。その差周波数の変化を制御信号として抽出し、安定化の制御を行っています。


図1 周波数引き寄せ現象
周波数引き寄せ現象 を利用した安定化制御(YS-307)
安定化制御の概要
YS-307の装置構成(図2)に沿って、安定化制御を解説します。

- 周波数引き寄せ現象 によって生じる複数モード間の差周波信号の変化を抽出し、制御信号とする。
- バックビーム中のP、S両偏光は偏光子(PL1)で重ねられ、光ファイバーを通じてコントローラ内のアバランシェフォトダイオード(APD)に入力。
- アバランシェフォトダイオード(APD)により、周波数引寄せ現象によるモード相互の差周波の変化を制御信号周波数(fb)の変化として抽出。
- fbを水晶発振器により生成された基準信号周波数(fref)と周波数差検出回路により比較し、(fb – fref = 0)になるようにレーザーチューブのヒーター電流を制御し、周波数を安定化させる。
最大出力のシングルモードを得るため、Ne利得曲線(ゲインカーブ)中央にモード発振位置を設定しています(frefの値で設定可能)。
他の制御方式(偏光強度安定化法)との比較優位性
- 周波数変調不要で発振モード位置をNe利得曲線(ゲインカーブ)中央で安定化可能。
- 制御に用いる物理量が周波数のため、共振器ミラーや受光器の汚れなどによる変動の影響を受けない。
- 制御信号をデジタル処理することで、回路素子の温度変化による特性変化の影響をうけにくい。
安定化制御を支える技術(YS-307)
温度変化の影響を考慮した安定化点(lock point)設定
Ne利得曲線(ゲインカーブ)は温度変化の影響を受けて形状が変化し、モード発振位置と制御信号の対応関係に影響を及ぼします。
YS-307では、計量トレーサビリティ体系の長さ基準で二次標準となっているヨウ素レーザーを参照して、環境温度変化による影響の少ない位置を(fb – fref = 0)となる安定化点(lock point)として設定しています(図3)。

環境温度変化に強い2段階の安定化制御
YS-307では、① 通常の比例制御、② 独自の0値収束回路による蓄積型積分制御、の2段階の制御を用いて、環境温度の変化によらず(fb – fref = 0)にロックします(図4(a))。通常の比例制御のみだと、fb – fref信号は環境温度の変化により変動します(図4(b))。
2段階の制御を用いて環境温度変化の影響を受けないように設計しています。


図4 安定化制御の比較
安定化動作温度範囲を広げる2ヒーター方式の採用
YS-307はメイン、サブ2系統のヒーターでレーザー共振器長を制御します。安定化制御はメインヒーターで行い、サブヒーターでは環境温度変化の補償を行います。2つのヒーター系により、「2段階の安定化制御」の有効動作温度範囲を広げています。
弊社測定では、制御中の環境温度変化が±20℃の広い範囲で上記「2段階の安定化制御」の有効動作を確認しています(25℃環境での安定化制御開始にて)。
幅広い時間間隔に亘る10-11の高安定性
以上の安定化制御技術を用いる事で、YS-307では幅広い時間間隔(1秒間隔〜1,000秒間隔)で10-11の高い安定性を実現しています。
下図(図5)は偏光強度安定化方式の製品(弊社QSシリーズ)との安定度比較です。
