【第4章 連結体】

第25話

 酸素の存在しない宇宙空間では、エンジン燃焼によって推力を得るのは困難だ。

 そこで《LPHA》連結体に搭載されたマイクロ波放電式イオンエンジンは、電気の力で推力を得る仕組みを採用している。
 たった数十グラムの燃料で宇宙空間を何年、何十年も航行できる燃費の良さも併せ持つ。

 ただし、イオンエンジンの推力は、たった1円玉1個を動かせる力でしかない。
 無重力の宇宙で、何ヶ月、何年も加速を続けると秒速30キロメートル(ジャンボジェットの百倍の速さ)という超高速度が得られるのである。

 3億キロ離れたセクメトにたどり着くまで、約1年。

 いよいよはじまるレーザー照射作戦を間近に控えた2036年1月。

 大熊電気社長・大熊勝が、亡くなった。
 まだ52歳だった。

 知らせをきいた國場は覚悟していたこととはいえ、動揺した。
 白河に伝える役目を引き受けたものの、気が重たかった。
 白河と大熊は研究室以来、レーザー核融合の研究でアイディアを出し合う率直な付き合いだった。

『D計画』の要、レーザー照射を目前に逝った無念さを思うと胸が詰まる。
 白河に大熊の訃報を伝えると、日本には帰れそうもないことを悔いていた。

 2000兆ワット。
 人類の消費電力の1000倍に相当するエネルギーを生み出さなければならないのだ。
 とても葬儀に参列余裕はなかった。

 プロジェクトを代表し、國場と加瀬が葬儀に出た。
 大熊は離婚していたが、喪主は一人娘の寛子が気丈に務め、参列した『D計画』プロジェクトメンバー、及び《響22号》の製造部品を担当する大熊電気の技術者たちにこういった。

「どうか父の思いを叶えてください」

 レーザーで、セクメトの軌道を変える。

 國場たちは寛子の言葉で決意をあらたにした。